NPO法人 アグリサポート深谷


農業体験農園

 深谷市における「農業体験農園」の提案

アグリサポート深谷 代表理事 鈴木紀安

1. はじめに                                                        

農業をとりまく状況は、都市化の進行、高齢化、後継者の減少等による耕作放棄地の増加を招いています。また、「食と農」が分断され、食料自給率の低下のなかで、消費者の農業理解が困難な現状にあります。このような現状を踏まえ、「食と農」という農業理解を進めていくには、消費者に自ら農業を体験してもらうことが必要ですが、その機会を十分に得られない状況にあるのは、当深谷市においても同じことが言えると思います。

2. なぜ、「農業体験農園」なのか

深谷市内においても、市並びに農業協同組合の管理による市民農園は数か所存在しており、また、農家自ら開設する収穫体験農園も見受けられます。これらの農園を整理しますと。

   市民農園:地方自治体や農業協同組合などが開設する、若しくは、農地を所有する農業者自らが開設する農地を借りて行う家庭菜園です。

   収穫体験農園:花卉・野菜・果樹などの摘み取りを行う観光農園、また、畝売り・株売りを行う農園などがあり、これまで「体験農園」と言うと、主にこのような収穫体験農園を指していました。

しかし、市民農園は、単なる「貸農園」であり、栽培等十分な指導を得られず、農家(貸し手)と消費者(借り手)の交流・コミュニティーも生まれない状況にあります。また、収穫体験農園などでは「作物を作る過程が楽しめない」など、これまでにも多くの課題が指摘されていました。 それらを総合的に解決するのが、農家が開設・運営する「農業体験農園」です。

「農業体験農園」の特色と魅力

「農業体験農園」は単に農地を貸し付けるだけの市民農園とは異なり、次のような特色と魅力があります。

消費者(「入園者」と呼ぶ)の栽培指導や交流(農家及び入園者同士)による満足と農業理解の譲成

入園者自らが、「安全・安心」な野菜を栽培することができ、都合にあわせ体験できる

農園主は、農業技術を自ら教え、学ぶことにより、後継者(新規就農者を含む)を確保・養成することが可能

やりがいのある「先進的な農業経営」(経営作目と同等の入園料:収入を確保)                      ※入園者に「農作物を直接、1年を通して、全量買ってもらう契約栽培」といえます。                       (想定される例) 1,000㎡の農地で25区画(1区画・30)を用意                            ※入園料(年間・1) 2万円として、50万円(東京等都市部では、3~4万円)≒経営作目と同等

農業者が、「農業経営」の一環として「消費者参加型の農業」を行おうとするならば、この「農業体験農園」が最も効果的であり、同時に「農業のある地域づくり」を実現し、「都市住民との交流」を目的とした、「新たな地域農業の振興策」としても期待がもてるものと考えます。
「農業体験農園」は、都市住民の農業への理解を深め、「農業ヘルパー等支援組織」を育成するとともに、「地域農業の活性化」に繋げていくことも可能です。また、地域が連携することによって広域に波及させるなど、無限の可能性を秘めています。                                                  

「農業体験農園」の園主と入園者の責務

   園主は、農園での「講習会」などを通じて入園者の栽培指導にあたる                            

   園主は、作付けする野菜の種類や作業などを細かく説明、指導する                             

   園主は、「農業理解」に向けた啓発を入園者に意識して行う                                   

   入園者は、安全・安心で高品質の野菜を栽培し、草取りの徹底等農園を綺麗に保つ                  

農業体験農園の仕組み

(1)園主の指導

入園者が行う基本的な農作業は、全て園主の指導のもとに行います。また、園主は、高品質で安全・安心な野菜が収穫できるよう作付計画の作成や品種の選定を行います。

また、入園者は播種・定植から病害虫防除、除草や施肥等、さらには収穫までの一連の農作業を体験します。

(2)作付け作目などの決定

農業体験農園は、「園主が自ら行う農業経営」ですから、入園者は自分が好きな作目や品種を勝手に作ることはできません。作付けする品目や種類は、園主が全て決定します。

(3)種苗や農具の準備

種苗や基本的な農作業に必要な農具等は、園主が用意しますから、入園者は手ぶらで来ることができます。
また、その時期に必要な農作業等も掲示板等に記載するなど、入園者が安心して農作業ができる環境を作ります。

(4)美味しい野菜を作ります

園主は「流通本意」の野菜ではなく、多少の手間や経費がかかっても、また、見た目が多少劣るような品種でも、本当に美味しい旬の野菜や、古くから伝わる伝統野菜などを作付けするよう配慮します。

 

農業体験農園の1年の流れ

農業体験農園の仕組み(全国農業体験農園協会HPより)

「農業体験農園」の開設にあたって

(1)農園の準備(区画割を含む)

春先には農家が堆肥を散布してトラクターで耕起し、種まきの準備をします。
一般の市民農園では入園者自ら耕起しますが、かなりの重労働のため怠りがちで、良い作物が育たない原因となっています。丁寧に耕起しないと作物にも影響があります。また、堆肥の散布は、あらかじめ日程を決めておくことで入園者と共に行うこともできます。
また、作付け計画等を作成し、農園の区画割りをします。

(2)利用者の募集

広報等を利用して入園者を募集します。特に、農園への直接掲示は効果的です。
1年未満(11ヶ月程度)を契約期間として、入園者と園主とが契約します。なお、
「都市住民との交流」を目的とした、「新たな地域農業の振興策」としても県外の利用者も可能とします。
契約の更新を希望する利用者に対しては、一般的に最高5回(5年間)を限度として更新できることにしていますが、都市部においては、毎年90%以上の入園者が継続更新しています。
また、新たな入園者を募集する際は、
行政の広報(HPを含む)を利用、②農園の入り口に設置した看板に掲示、入園者からの紹介、などによって行うと円滑に進みます。

(3)利用期間と入園者に対する説明

年間に利用できる期間は、概ね3月から翌年1月末日までとしています。入園者は1月末までに利用区画を更地(利用前の状況)に戻します。
園主は、2月中に元肥(堆肥等)を施し、耕耘を行い、新たな募集・入園に備えます。

(4)栽培方法・指導の基本

多くの入園者が望んでいるのは、「完全無農薬・無化学肥料」による栽培ですが、肥培管理等が困難なため、「減農薬・減化学肥料栽培」を指導の基本とします。また、そのことを入園者にきちんと理解してもらうことも必要です。

 

以上